「ABC殺人事件」(メモ6)

「で、それから?」わたしはたずねた。 「それから、また話しあいます!断言しますがね、ヘイスティングス――なにか隠すべきことをかかえている人間にとって、会話ほど危険なものはありませんよ。むかし、ある賢い老フランス人がわたしに言ったことがあります――話すことは、考えることを妨げるための人間の発明だ、と。それはまた同時に、ひとが隠そうとしていることをあばくための、ぜったい確実な手段でもあるわけです。人間とはね、ヘイスティングス、自分自身をひけらかし、自己の個性を発揮する機会――会話が与えてくれるそういう機会には、どうしても抵抗できないものなんです。機会あるごとに、そうやって自分から尻尾を出したがっているのですよ」 「じゃあ、カストがいったいなにをあなたに言うと期待しているんです?」 エルキュール・ポアロはにんまりした。 「嘘を、ですよ。そしてその嘘によって、わたしは真実を知ることになるのです!」 (アガサ・クリスティ「ABC殺人事件」338P) 価格:734円(税込、送料無料) (2018/9/30時点)