街で久しぶりに遭った人

 昼間、駅の前を通過したとき、「いや〜、久しぶり」と声をかけられた。

 この一ヶ月ほどで目は本当に悪くなり7、知っている人とすれ違っても、私の方からはわからなかったりするが、この人の声は特徴があるのでわかったし、うすぼんやりと目に映った姿は記憶にあるものだった。

 この人はちょっとした知りあいだが、最後に会ったのはもう7〜8年前になるだろう。今は70代。引退して年金暮らしのはずだ。

 この人、挨拶もそこそこに、私を物陰に連れて行くではないか。そしてポケットから何か出した。目が悪くなった私だが、それが何かはわかった。札束だった。

 「いいか、誰にも言うなよ。地方競馬で当てたんだ。3万円が380万円だよ」

 「すごいですね」

 「いいか、絶対に誰にも言うなよ。実は競馬の裏情報を教えてくれる人がいるんだ。。この人の言う馬券を買えば、絶対に損しない。これから、その人と待ち合わせなんだ」ど、そして「一緒にとどう? 今現金、5万くらい持ってるでしょ」と言い出した。

 「いやいや、そんなに゜現金持ってませんよ。それに私、これから秋葉原へ行かなくちゃならならないので」と振り切って帰ってきた。実際、現金ってあまり持ち歩かない主義で、ほとんど電子マネーだもんな。

 競馬って、一時期やってたけど、あまり高額の賭けってやらなかったし、そもそも儲けようという気もなかった。それでもトータルではわずかながらプラスだったと思う。

 もうすっかり興味の無くなってしまった競馬だが、今でも競馬で儲けようとは思わない。