日曜日の朝、電車の中

日曜日の朝、催し物の開場時刻をめざして妻のサマンサと二人で上野に向かっていました。

横浜にあるわが家から上野駅まで電車で1度乗り換えて1時間です。

休日の朝とはいえ、平日の通勤時に比べれば車内空いているものの、座ることができるほどではありません。

この日は朝から出かけるとあって、サマンサはふだんの休日より2時間早く起きています。

かといって前の晩はいつもと同じ頃に床についたそうです。

つまり睡眠時間が2時間短いということです。

履歴書を書かせたら趣味欄に睡眠と記載しかねないサマンサにとっては、睡眠不足での1時間の電車移動は負担です。

できれば座り、さらにちょとうたた寝したいところです。

つり革につかまり立っていると、新橋駅に着いて、サマンサの左手の方の席が空きました。

でも、その席の前のつり革には高校生くらいの男性が2人立っています。

しかも、開いた席の隣りの席は彼らの連れがすでに座っています。

立っていた2人のうち一人がすわろうとして、サマンサも空いた座席を見ていたのに気づきました。

どうぞ、と目の前の席をサマンサに譲ってくれました。

サマンサは顔をほころばせました。

なかなか心に余裕のある若者たちです。

すると、今度はサマンサの席の横に座っていた青年が、私の方を見て、どうぞ、と立ち上がりました。

サマンサと話していたのをみていて、サマンサが座ることにより私と離れたことを気遣ったのでしょう。

それに席を譲ってもよさそうな老人にも思えたのでしょう。

だいじょうぶ、と私が一度おことわりしても、どうぞ、と青年は勧めるので、善意をうけることにしました。

彼らは何ごともなかったように、サッカーの会話を再開しました。

さりげない善意はかっこいいですね。

老人扱いされて腹が立たないか。

以前、電車で席を譲られる日を待っているというと、友人たちはそう訊きかえしてきました。

善意を受けると、気分がおおらかになります。

席を譲る方だって、座ってもらった方が善意が完結して気分がいいんじゃないでしょうか。

だいいち、私は老人だし。

end

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